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Miles Davis 1972-83年アルバム(”On the Corner” “Get Up With It” “The Man With the Horn” “Star People”)の紹介・評価
前回紹介しました“「Filles De Kilimanjaro」「In a Silent Way」「Bitches Brew」「A Tribute to Jack Johnson」に引き続き、今回は、1972-83年に制作されたアルバム「On the Corner」「Get Up With It」「The Man With the Horn」「Star People」を紹介・評価していきたいと思います。
1970年代のマイルスは、ジャズから遠ざかっていきます。
その中で、「On the Corner」はファンク色の強い作品、「Get Up With It」は、ロックやら、ファンクやら、ソウル、前衛などがごった煮した実験色の強い作品を発表しました。
また、1970年代は、ライブを積極的に行い、ライブ・アルバムを多数発表しますが、1976年以降、マイルスは、健康状態が悪化し、長期の休養に入ります。
その後、1980年代に入り、復帰作「The Man With the Horn」を発表します。
この「The Man With the Horn」と次作「Star People」は、ロック色の強いヒュージョンのアルバムで、1970年代の過激なマイルスにしては、シンプルで聞きやす作品となりました。
そんなマイルス・デイヴィスのアルバム4枚を、独断と偏見で、各曲に点数をつけて、評価してみたいと思います。
マイルス・デイヴィスのおすすめのアルバムを知りたい方や、マイルス・デイヴィスのアルバムの評価を知りたい方に、役立つ記事になっています。
評価結果
アルバムの評価結果は以下になりました。
No | 作品 | 評価点(10点満点) |
---|---|---|
1 | On the Corner | 7点 |
2 | Get Up With It | 6.38点 |
3 | The Man With the Horn | 6.5点 |
4 | Star People | 5.83点 |
評価の詳細は、以下の通りです。
評価詳細
On the Corner
No | 曲名 | 感想 | 評価点 |
---|---|---|---|
1 | On The Corner | この曲は、「On The Corner/New York Girl/Thinkin’ Of One Thing And Doin’ Another/Vote For Miles」という長い題名がついています。トランペットやサックスの管楽器は、ほとんどメロディを持たず、前衛音楽を感じさせます。リズムがファンキーで、本アルバムが、「スライ&ザ・ファミリー・ストーンを意識して作られた」というのがよく分かります。マイルスの「音楽はリズムだ」という言葉通りの曲です。 | 7点 |
2 | Black Satin | アフリカのリズムとシタールが絡み合ったジャングルを感じさせるイントロから、一気に、ファンキーなベースがリズムを刻みます。鈴の音やワウ・トランペット、ワウ・ギターによって、今までに聞いたことのないファンキーな音楽が展開されていきます。 | 7点 |
3 | One And One | 2曲目の延長線上のような曲で、ファンキーなベースがリズムを刻み、前衛的なトランペットが乗ってきます。前曲以上に鈴の音が鳴り響き、鈴の音もリズを刻んでいます。聞いていくうちに、このリズムが心地よく感じてきます。 | 7点 |
4 | Helen Butte / Mr. Freedom X | 本作の中で最も長い23分超の曲で、この曲も、ひたすらベースとドラムのリズムが刻まれていきます。そのリズムの上に雑音と思えるようなワウ・トランペット、ワウ・ギターが絡み、独特な音楽を醸し出しています。現代のテクノに通じるところがあり、この音楽にハマってしまうと抜け出せなくなる魅力を持っています。 | 7点 |
平均点 | 7点 |
当時のマイルスは、スライ&ザ・ファミリー・ストーンを意識していたと言われており、本作は、ジャズとは全く異なり、ファンキーなストリート・ミュージックです。
トランペット・ソロはなく、マイルスは、必要以上のトランペットは吹いていません。兎に角、リズムで押しまくっており、クラブ・ミュージックがまだ発達していなかった時代に、このような音楽を作り出していたことに凄さを感じます。保守的なジャズが好きな人には、おすすめできるアルバムではありませんが、ヒップ・ホップやファンキーな黒人音楽が好きな人には、おすすめのアルバムです。
(メンバ)
Miles Davis:electric trumpet electric organ
Michael Henderson:bass guitar
Don Alias:drums, percussion
Jack DeJohnette:drums
Al Foster:drums
Billy Hart:drums
James Mtume:percussion
Carlos Garnett:soprano saxophone, tenor saxophone
Dave Liebman:soprano saxophone, tenor saxophone
Bennie Maupin:bass clarinet
Chick Corea:Fender Rhodes, keyboards
Herbie Hancock:Fender Rhodes, keyboards
Harold Ivory Williams:keyboards
Cedric Lawson:organ
Dave Creamer:guitar
Reggie Lucas:guitar
John McLaughlin:guitar
Khalil Balakrishna:electric sitar
Collin Walcott:electric sitar
Paul Buckmaster:electric cello
Badal Roy:tabla
Get Up With It
No | 曲名 | 感想 | 評価点 |
---|---|---|---|
1 | He Loved Him Madly | 32分にも及ぶこの曲は、当時亡くなったばかりのデューク・エリントンへ捧げられた曲ですが、マイルスのトランペットは、ほとんど出てきません。静かな重苦しい前衛的なギターの音が淡々と流れているだけで、盛り上がりがなく、アンビエント・ミュージックと言ってもおかしくないような作品です。 | 4点 |
2 | Maiysha | 1曲目の「He Loved Him Madly」から一転、カッティング・ギターが心地よい爽やかな曲です。マイルスはオルガンも演奏しており、後半は、ワウ・トランペットとワウ・ギターによるファンキーなサウンドへと変化していきます。 | 6点 |
3 | Honky Tonk | 2曲目から引き続き、ファンキーなワウ・ギターから始まり、途中からマイルスのトランペットが入ってきます。ここでのマイルスのトランペットはジャズらしい演奏を行なっています。キース・ジャレットがエレピ、ハービー・ハンコックがクラヴィネットを演奏しています。 | 7点 |
4 | Rated X | マイルスのオルガンからスタートするこの曲は、強烈なリズムと凶暴なオルガン、ワウ・ギターが特徴の曲です。本作では、この曲と「Mtume」が、マイルスの過激さが出ています。電子化前の泣きのトランペットを演奏していたマイルスとは全く異なるタイプの曲です。 | 7点 |
5 | Calypso Frelimo | 10分ほどリズム隊が休むことなくリズムを刻み、その上にワウ・ギターとトランペットが乗ってきます。途中で、オルガンとエレピとベースが中心となり、怪しげな雰囲気に包まれ、ラストは、最高の盛り上がりを見せて終了していきます。こんな音楽をやれるのは、マイルスぐらいしかいないのではないかと思えます。マイルスは、この曲でも、エレピとオルガンを演奏しています。 | 8点 |
6 | Red China Blues | 本作では、最も短い曲(と言っても、4分以上はあります)で、アメリカン南部を感じさせる泥臭いブルース曲です。マイルスは、このようなブルース曲も作れるのかと、その才能に感服してしまいます。 | 6点 |
7 | Mtume | 本作にパーカッションで参加しているジェームズ・エムトゥーメが曲名になっている作品です。そのためか、パーカションのリズムがヘビーで、本作の中で、最も過激な曲です。マイルスのワウ・トランペットのファンキーな音が、物凄いことになっています。 | 8点 |
8 | Billy Preston | 第5のビートルズと言われていたビリー・プレストンが曲名になっています。マイルスとビリー・プレストンとの関係は、分かりませんが、ビリー・プレストンのような曲ではありません。ファンクを押し通したブラックの曲です。 | 5点 |
平均点 | 6.4点 |
本作は、マイルスのアルバムの中で、最も攻撃的で、鋭さのあるアルバムで、「Bitches Brew」のような刺激が欲しい人には、最適なアルバムです。一度病みつきになってしまうと、抜けられなくなってしまう中毒性ありますが、保守的なジャズを求めている人には理解に苦しむ音楽であり、世間的にも一般受けしないため、商業的には失敗しました。
それが影響したのか、本作発売以降、マイルスは、ライブを中心とした活動に移行していきます。しかし、ライブ活動中に体調不良となり、6年間の引退生活を迎えることになります。
(メンバ)
Miles Davis:electric trumpet, organ
Dave Liebman:flute
Steve Grossman — soprano saxophone
John Stubblefield — soprano saxophone
Carlos Garnett — soprano saxophone
Sonny Fortune:flute
John McLaughlin — electric guitar
Pete Cosey:electric guitar
Reggie Lucas:electric guitar
Dominique Gaumont:electric guitar
Cornell Dupree — electric guitar
Michael Henderson:bass guitar
Wade Marcus — brass arrangement
Cedric Lawson — electric piano
Keith Jarrett — electric piano
Herbie Hancock — clavinet
Lester Chambers — harmonica
Khalil Balakrishna — electric sitar
Badal Roy — tabla
Bernard Purdie — drums
Al Foster:drums
Airto Moreira — percussion
James Mtume:percussion
The Man With the Horn
No | 曲名 | 感想 | 評価点 |
---|---|---|---|
1 | Fat Time | マイルス復帰作のオープニング・ナンバーは、マーカス・ミラーのベースが響く、マイルスの新しいスタイルを感じさせる曲です。マイルスは、ミュート・トランペットで、都会的な大人の音を出しています。一方、途中で、マイク・スターンのハードなエレキ・ギターも入ってきて、ロックとジャズが混在します。緊張感の中に、ハードボイルドを感じさせる作品です。 | 7点 |
2 | Back Seat Betty | 前曲に続き、イントロのハードなギターは、ロックしています。その後、すぐに、静かなマイルスのミュート・トランペットが入り、マイルスの世界に呼び戻されていきます。本作の中では、最も長い11分超の曲で、マイルスの都会的でハードボイルドなミュート・トランペットを聞くことができます。 | 6点 |
3 | Shout | ランディ・ホールとロバート・アービングの曲です。カッティング・ギターのノリの良い曲で、本作の他の曲とは、違う雰囲気を持っています。1980年代のヒュージョンを感じさせ、電子化後のマイルスには珍しく、尖った要素はなく、非常に聞きやすい曲です。 | 6点 |
4 | Aïda | マーカス・ミラーのカッコ良い重低音のチョッパー・ベースと、パーカッションのリズミカルなロック・ビートが特徴の曲です。マイルスのトランペットも、ロックのリズムにのり軽快に演奏されています。 | 6点 |
5 | The Man with the Horn | ロバート・アービングの曲で、ランディ・ホールの歌と女性コーラスの入った美しいバラード曲です。このような歌もののバラード曲をやることに、マイルスの1980年代の新しいスタイルが伺えます。マイルスのワウ・ペダルを使用したトランペット・ソロにも、斬新さを感じます。 | 7点 |
6 | Ursula | ラスト・ナンバーは、マイルスの都会的でハードボイルドなミュート・トランペットが聞ける曲です。フォスターの重厚感のあるドラムと、ビル・エヴァンスのサックス・ソロが、この曲をリズミカルにしています。 | 7点 |
平均点 | 6.5点 |
本作は、マイルスが6年間の引退生活から復帰した最初の作品です。引退前の「On the Corner」や「Get Up With It」が、リズムを前面に押し出した尖った作品であったのに対して、本作は、都会的でハードボイルドな作品となっています。
当時まだ無名であったビル・エヴァンス(サックス(ジャズ・ピアニストのビル・エヴァンスとは同姓同名の別人です。))、マーカス・ミラー(ベース)、マイク・スターン(ギター)が、マイルスの新たなパートナーとして参加しています。
(メンバ)
Miles Davis:trumpet,Wah pedal
Bill Evans:soprano saxophone
Robert Irving III:synthesizer,acoustic piano
Randy Hall:Minimoog,celeste,electric guitar,lead and backing vocals
Mike Stern;electric guitar
Barry Finnerty:electric guitar
Marcus Miller:electric bass
Felton Crews:electric bass
Al Foster:drums
Vince Wilburn Jr.:drums
Sammy Figueroa:percussion
Star People
No | 曲名 | 感想 | 評価点 |
---|---|---|---|
1 | Come Get It | 1980年代のマイルスらしく、マーカス・ミラーのベースとリズムの激しい曲です。ベース、ドラム、シンセサイザー、カッティング・ギターの演奏が続いた後、ようやくマイルスの激しいミュート・トランペットが登場します。マーカス・ミラーのベースの凄さが目立つ作品です。 | 7点 |
2 | It Gets Better | 1曲目から途切れなく続く、この曲は、スローテンポのブルース調の曲です。1曲目は、マーカス・ミラーとリズムの勢いに押されていたマイルスのトランペットですが、この曲では、渋いマイルスのトランペットが主役の曲です。 | 6点 |
3 | Speak | マイルスのシンセサイザーからスタートするこの曲は、今までのマイルスの音楽には見られなかったファンキー・ロックの作品です。マイク・スターンのハード・ロックなギターに、マイルスのファンキーなシンセサイザーが特徴的です。前半は、マイルスのトランペットは、ほとんど目立っていません。 | 5点 |
4 | Star People | マイルスの美しいミュート・トランペットが聞けるバラード曲です。この時代のマイルスには珍しいオーソドックな演奏で、保守的なジャズ好きな人にも受け入れられる曲です。 | 7点 |
5 | U ‘n’ I | マーカス・ミラーのファンキーなベースに、マイルスのトランペットの風変わりなメロディが特徴的な曲です。美メロではありませんが、耳に残り、印象的です。 | 5点 |
6 | Star on Cicely | 当時のマイルスの妻であるシシリー・タイソンが、曲名になっています。妻や恋人に捧げている曲は、甘いバラード曲が多いですが、この曲は、ファンキーな曲で、あまりメロディがはっきりしない曲です。 | 5点 |
平均点 | 5.8点 |
マイルスの復帰作第二弾のアルバムで、マーカス・ミラーのベースが目立っている作品です。1980年代の新たなマイルスのスタイルであるロック色の強い曲もあれば、アルバム名にもなっている「Star People」のようなジャズ・ブルースな曲もあったりと、ジャズとロックが入り混じったような作品です。
本作発売当時のマイルスは、絵画にも凝っており、ジャケットの絵は、マイルスが描いたものです。何を描いているのか分からない不思議なジャケットです。
(メンバ)
Miles Davis:trumpet,keyboards
Mike Stern:electric guitar
John Scofield:electric guitar
Marcus Miller:electric bass
Tom Barney:electric bass
Al Foster:drums
Mino Cinelu:percussion
Bill Evans:soprano saxophone,tenor saxophone
Gil Evans:arrangements
まとめ
マイルスの1972-83年のアルバム4枚を紹介・評価しました。
6年間の引退生活に入る前のアルバム「On the Corner」と「Get Up With It」は、リズムを中心とした過激な作品、復帰作の「The Man With the Horn」「Star People」は、ロック色の強い作品でした。
保守的なジャズが好きな人には、この時代のマイルスの音楽は、受け入れ難いのではないかと想像しますが、ハマれば中毒性の強いアルバムですので、毛嫌いせず、この音楽にハマっていってもらえればと思っています。
次回は、マイルスの1984-86年のアルバムを、紹介・評価していきたいと思います。
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