ドビュッシー ピアノ作品集 「前奏曲集 第1巻」「前奏曲集 第2巻」「12の練習曲」の紹介・評価

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ドビュッシー ピアノ作品 「前奏曲集 第1巻」「前奏曲集 第2巻」「12の練習曲」の紹介・評価

前回は、ドビュッシーの中期のピアノ作品集「版画」「映像 第1集」「映像 第2集」「子供の領分」を紹介しましたので、今回は、後期のピアノ作品集「前奏曲集 第1巻」「前奏曲集 第2巻」「12の練習曲」の紹介・評価をしていきます。

ドビュッシーの後期の作品は、印象主義を極めていき、難解な曲が多いことが特徴です。

ドビュッシーを聞いたことがない初心者の方には、曲の良さを理解するのが難しいかと思いますが、その中でも、「亜麻色の髪の乙女」など、分かりやすく美しい作品もあります。

そんなドビュッシーの後期のピアノ作品集を紹介・評価していきます。

評価点は、良い曲かどうかで、個人的な独断と偏見で採点していますので、世間一般の評価と違うところもあるかもしれませんが、その点、ご了承ください。

ドビュッシーの曲を聞いてみたい方、ドビュッシーのピアノ曲の評価や、おすすめの曲を知りたい方に、役立つ記事になっています。

評価結果

評価結果は、以下の通りになりました。

作品評価(10点満点)
前奏曲集 第1巻5.75点
前奏曲集 第2巻5.75点
12の練習曲5.67点

評価の詳細は、以下の通りです。

前奏曲集 第1巻

作品名評価点(10点評価)
前奏曲集 第1巻5.75点

【各楽曲の評価】

1. デルフィの舞姫たち(評価点:4点)

デルフィとは、ギリシャ共和国中央ギリシャ地方の地名のことで、ドビュッシーは、「3人の女神の舞っているギリシャ彫刻を好んでいた」と言われています。

この曲は、古代ギリシャの情景を題材にしており、ゆっくりとしたテンポで荘厳な作品です。

サラバンド(3拍子による荘重な舞曲)風でもあります。

2. 帆(評価点:5点)

原題は、「ヴェール」で、女性の装身具という意味もありますが、邦題の通り、ドビュッシーは、舟の帆をイメージして作曲されたと言われています。

冒頭部はゆっくりと、中間部では速くなり、風にはためく帆のイメージを持つことができます。

作曲技法として全音音階が使用されているため、難解な曲です。

3. 野を渡る風(評価点:5点)

フランスの詩人ヴェルレーヌの詩の一節から、この曲名がつけられています。

冒頭部は、軽やかな演奏で、穏やかな風をイメージできます。

中間部では、激しい和音によって、時折、激しい風が吹いてくるイメージを湧かせてくれます。

4. 音とかおりは夕暮れの大気に漂う(評価点:3点)

この曲も詩(ボードレールの詩)の一節から、曲名がつけられているため、詩的な美しい曲名です。

しかし、曲名とは裏腹に、陰影で不安を感じさせる曲です。

曲名から、夕暮れを表現しているのかと思いますが、陰陰な夕暮れを感じます。

後期のドビュッシーの作品らしい難解な曲です。

5. アナカプリの丘(評価点:7点)

アナカプリとは、ナポリ県の南部、ナポリ湾に位置する観光地として知られる島のことです。

この曲は、タランテラのリズムを持ち、きらきらと眩しい明るい太陽の下の地中海をイメージすることができます。

1番〜4番まで、暗い曲が続いてきましたので、この曲は、この作品集のひと時の清涼剤になります。

6. 雪の上の足跡(評価点:3点)

この曲は、「このリズムは悲しく冷たい遠景のような響きで」と注釈されているように、冷たく絶望的な曲です。

雪の上を、重い足取りで歩かなければならない憂鬱さをイメージすることができます。

「前奏曲集 第1巻」の中では、最も難解な曲です。

7. 西風の見たもの(評価点:7点)

アンデルセンの童話「楽園の庭」を題材にしており、同じ風でも、3番の「野を渡る風」とは違い、こちらの風は、激しい嵐をイメージすることができます。

一聴しただけで、ピアノの演奏技術が求められることが分かる曲です。

8. 亜麻色の髪の乙女(評価点:8点)

前曲「西風の見たもの」では、嵐が吹き荒れていましたが、この曲は、嵐が過ぎ去った後の静けさを感じさせます。

ドビュッシーの曲の中でも、最も有名な曲で、後期のドビュッシーの曲には珍しく、甘美な旋律をもった分かりやすい作品です。

9. とだえたセレナード(評価点:5点)

「セレナード」とは、夕べの音楽を意味し、夜曲とも訳されます。

しかし、この曲は、夜のイメージはなく、スペイン風の性格を持ちます。

曲名通り、旋律は途絶えがちであるために、不思議な印象を受けます。

10. 沈める寺(評価点:9点)

この曲は、フランス・ブルターニュ地方のケルト族の伝説にもとづいており、ドビュッシーの曲の中でも名曲の1つです。

中間部での盛り上がるパートは、神秘性を感じ、芸術性の高さが伺えます。

11. パックの踊り(評価点:6点)

パックとは、シェイクスピアの戯曲「真夏の夜の夢」に出てくる悪戯好きの小妖精のことです。

小妖精の軽やかな踊りをイメージすることができます。

12. ミンストレル(評価点:7点)

ミンストレルとは、20世紀の人気のあった黒人グループのことです。

滑稽な舞踏曲で、この滑稽さは、「子供の領分」の「ゴリウォーグのケークウォーク」を思い出させてくれます。


【全体のコメント】

ドビュッシー中期の作品「版画」や「映像」とは違った別次元の印象主義に向かっていった作品集です。

暗めで静かな難解な曲が多く収録されており、ドビュッシーの作品集の中では、とっつきにくい作品かと思います。

その中でも、「亜麻色の髪の乙女」や「沈める寺」など、名曲も存在しています。

前奏曲集 第2巻

作品名評価点(10点評価)
前奏曲集 第2巻5.75点

【各楽曲の評価】

1. 霧(評価点:7点)

この曲は、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」に影響を受けていると言われており、不安定な音が散りばめられています。

そのため、霧という不安定な情景をうまく表現できている作品です。

後期のドビュッシーらしい旋律を持った曲です。

2. 枯葉(評価点:4点)

この曲は、作曲技法として、近代の八音音階を使用しているため、難解な曲です。

「枯葉」というと、ロマンチックなジャズのスタンダード曲を思い出しますが、この曲には、そのようなロマンチックさはなく、ただただ暗い秋の雰囲気を感じます。

3. 酒の門(評価点:7点)

グラナダのアルハンブラ宮殿にあるワインの門をイメージして作曲されたと言われています。

そのため、スペイン風の旋律が所々で見られますが、行進曲のようなリズムを持っており、不思議な構成を持つ作品です。

4. 妖精たちは妙なる踊り手です(評価点:6点)

この曲は、『ピーター・パン』の挿絵からヒントを得て作曲されたと言われています。

冒頭の素早いトリルから、中間部では、「ゆったりとした旋律」と「速い旋律」が入り乱れ、妖精たちの不規則な踊りをイメージすることができます。

5. ヒースのしげる荒野(評価点:7点)

ヒースとは、ツツジ科のコケモモのことで、この作品は、ヒースが茂る荒野を意味しています。

「前奏曲 第1巻」の「亜麻色の髪の乙女」のように、後期のドビュッシーの作品には珍しく、甘美な旋律をもった分かりやすい曲です。

6. 奇人ラヴィーヌ大将(評価点:6点)

「前奏曲 第1巻」の「ミンストレル」や「子供の領分」の「ゴリウォーグのケークウォーク」と同様に、滑稽な曲です。

アメリカの喜劇俳優の実在人物ラヴィーヌをもじった作品です。

7. 月光のふりそそぐ露台(評価点:3点)

この曲の冒頭に、童謡『月の光に』の一節を引用しており、その一節を様々に変容させています。

ドビュッシーの代表曲「月の光」のようなロマンチックな曲とは異なり、暗く陰陰な曲です。

8. 水の精(評価点:7点)

この曲は、イギリスの挿絵画家アーサー・ラッカムの挿絵に霊感を得て書かれた曲と言われています。

複雑な構成を持ち、次にどのような旋律が出てくるのか予測がつかず、不安定な幻想的な作品です。

9. ピクウィック卿をたたえて(評価点:5点)

チャールズ・ディケンズの小説「ピクウィック・ペイパーズ」の主人公をパロディ風に描いた曲で、冒頭の重厚な和音の旋律から、中間部では、様々な滑稽な旋律が次から次へと出てきます。

10. カノープ(評価点:3点)

カノープとは、古代エジプトの壺のことです。

この曲は、「静かにほのぼのと、悲しげに」と注釈がありますが、ほのぼのさは感じられず、全体的に暗い雰囲気に包まれています。

「前奏曲集 第2巻」の中では、最も難解な曲です。

11. 交代する三度(評価点:6点)

この曲だけ、題名がついておらず、ひたすら素速い三度和音が繰り広げられます。

3年後に完成する練習曲の先駆けとなった作品です。

12. 花火(評価点:8点)

「前奏曲集 第2巻」の中で、最も印象主義的な作品であり、曲名の「花火」を忠実に音に表現しています。

「花火に火を点けてから、夜空に花火が舞い上がり、最後は、その残像が残り花火が終了していく」様子が、目に浮かぶ作品です。


【全体のコメント】

「前奏曲 第1巻」は、1909年12月から約2か月間で集中して制作されましたが、「前奏曲 第2巻」は、1910年から1913年まで、約3年かけて制作されています。

「前奏曲 第2巻」は、「前奏曲 第1巻」よりも更に、近代音楽的な難解な曲が増えて、とっつきにくい作品となっています。

良い意味では、後世に影響を与えた革新的な作品とも言えます。

12の練習曲

作品名評価点(10点評価)
12の練習曲5.67点

【各楽曲の評価】

1. 五本の指のための練習曲、チェルニー氏に倣って(評価点:6点)

練習曲を多数残したチェルニーを皮肉っているのか、この曲は、ドビュッシーのユーモアが溢れている曲です。

冒頭は、チェルニー風の5本指の音階練習に対して、茶化した音程を入れていますが、中間部では、ドビュッシー流の本格的な練習曲に変わっていきます。

ドビュッシーは、この曲を、「あまり才能の恵まれていない生徒の初期の演奏を真似ている」と語っています。

2. 三度のための練習曲(評価点:6点)

三度和音の練習曲は、ショパンの練習曲にもあり(「OP25-6」)、ショパンの練習曲の中でも、かなりの演奏技術が必要な難曲です。

ショパンの練習曲と同様、この作品も、右手の3度和音を速く弾かなければならないため、難曲です。

「前奏曲 第2巻」の「交代する三度」を、発展させたような曲です。

3. 四度のための練習曲(評価点:5点)

優しい4度和音と激しい4度和音が入り乱れ、6拍子と3拍子が目まぐるしく交代していきます。

短調・長調の調性が不明瞭で、中間部では、サラバンド風の舞曲のような旋律が表れたりもします。

4. 六度のための練習曲(評価点:4点)

ドビュッシーは、この曲を、「サロンに座っているもったいぶった婦人たちが陰気に壁ぎわで舞踏会の見物をしながら、「9度」の狂女のような破廉恥な笑いに興じている」と語っています、

ドビュッシー独特の表現ですね。

全体的に憂鬱で不安を感じさせる曲で、ドビュッシーの言う「狂女」という言葉がぴったりの作品です。

理解するのが難解な曲です。

5. オクターヴのための練習曲(評価点:6点)

フランスの作曲家シャブリエのワルツからの引用が指摘されている曲です。

3部構成がとられており、第1部は、分かりやすい旋律ですが、第2部からは、分かりやすい旋律がなくなり、ドビュッシーらしい皮肉をもった曲調に変わっていきます。

6. 八本の指のための練習曲(評価点:6点)

「この曲では、両手の位置が変わるので親指は使いにくいし、使ったとしても曲芸的になってしまうだろう」との注釈がついており、親指を使わずに演奏することが推奨されています。

そのため、「八本の指のための練習曲」という曲名がついています。「前奏曲 第2巻」の「花火」を彷彿させる曲です。

7. 半音階のための練習曲(評価点:6点)

ドビュッシーは、この曲を、「少しくたびれたように見える手法を新しく使いなおした」と語っています。

単音から始まり、その後、3度、4度、5度、6度の和音が使用され、所々に、ドビュッシーらしい、滑稽な旋律が挟みこまれます。

8. 装飾音のための練習曲(評価点:7点)

「イタリアの海らしい舟歌の形式をとった曲」で、練習曲集の中では、最も美しく魅力的な曲です。

しかし、ドビュッシーですので、一筋縄にはいかず、ところどころに不協和音が入ってきたりと、ドビュッシー独特の表現が織り込まれています。

9. 反復音のための練習曲(評価点:5点)

この曲も、第5番「オクターヴのための練習曲」と同様、シャブリエ風の様式との類似性が指摘されています。

曲名通り、反復音が繰り返される曲で、ドビュッシーらしい滑稽な旋律を持つ練習曲です。

10. 対比的な響きのための練習曲(評価点:5点)

この曲は、極めて近代クラシック的であり、革新的な音楽の構成をとっています。

冒頭部は、暗く沈んでおり、練習曲というよりも、前奏曲に近く、中間部では、音の広がりが大きくなり突如として、情熱を帯びていきます。

理解するのが難解な曲です。

11. 組み合わされたアルペッジョのための練習曲(評価点:7点)

第8番「装飾音のための練習曲」と同様、練習曲集の中では、甘美で、きらめきのある曲です。

曲名通り、アルペジオが多く使用されていますが、安易にアルペジオの練習曲として終わらず、ドビュッシーらしい滑稽な旋律が、合間に挟み込まれており、聞き手を飽きさせない工夫がされています。

12. 和音のための練習曲(評価点:5点)

冒頭部は、短3和音と長3和音から始まり、その後、4度、5度、7度の和音が挟むみこまれていきます。

中間部では、近代的な暗く沈んだ旋律に変化していきます。

最後は、冒頭の短3和音と長3和音の力強い旋律へと戻り、終了していきます。


【全体のコメント】

ドビュッシーは、第一次世界大戦開戦のショックと直腸癌の悪化で、作曲ができないような状態でした。

そのような中、ショパンの作品全集の校訂を依頼され、それを契機にこの「12の練習曲」が制作されました。

「12の練習曲」は、最晩年のピアノ曲集で、ドビュッシーの20年の探求が集約されています。

そのためか、曲の良さを理解するのが難解な作品になっています。

まとめ

今回は、ドビュッシーの後期のピアノ作品集3作品を、紹介・評価しました。

今回紹介しました3作品は、どれも印象主義を極めていったドビュッシーの最終形の作品であり、近代クラシック要素が含まれた難解な作品でした。

そのため、この3作品は、ドビュッシーを聞いたことがない方には、最初に聞くことはおすすめできません。

ドビュッシーの音楽を理解できないことで、ドビュッシーを聞かなくなる可能性が高いためです。

ドビュッシーの初期、中期の作品を聞いてから、更にドビュッシーの音楽を極めていきたい方に、おすすめの作品です。

次回は、今まで、紹介できていませんでしたドビュッシーのピアノ単独作品の紹介・評価をしていきたいと思います。

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