ビル・エヴァンス 1977-79年アルバム(“You Must Believe in Spring” “New Conversations” “Affinity” “We Will Meet Again”)の紹介・評価
前回紹介しました「Quintessence」「Together Again」「Crosscurrents」「I Will Say Goodbye」に引き続き、ビル・エヴァンスのアルバムを紹介・評価していきたいと思います。
今回は、ビル・エヴァンスの1977-79年アルバム「You Must Believe in Spring」「New Conversations」「Affinity」「We Will Meet Again」を紹介・評価していきます。
1970年台後半のビル・エヴァンスは、麻薬の影響で、かなり健康が悪化していました。
そのような状況では、普通の人は、アルバム制作に影響を及ぼし、質の高いアルバムは制作できないと思いますが、ビル・エヴァンスの場合は、逆に、質の高いアルバムを作り上げています。
この最後のスタジオ・アルバム4枚は、アコースティック・ピアノ、エレクトリック・ピアノ(エレピ)共に、極みの境地に至っています。
そんなビル・エヴァンスの最後のスタジオ・アルバム4枚を紹介・評価していきたいと思います。
評価点は、個人的な独断と偏見で採点していますので、世間一般の評価とは異なるかもしれませんが、その点は、ご了承ください。
ビル・エヴァンスのおすすめのアルバムを知りたい方や、ビル・エヴァンスのアルバムの評価を知りたい方に、役立つ記事になっています。
評価結果
以下が評価結果です。
No | 作品 | 評価点(10点満点) |
---|---|---|
1 | You Must Believe in Spring | 8.0点 |
2 | New Conversations | 6.25点 |
3 | Affinity | 6.67点 |
4 | We Will Meet Again | 6.5点 |
評価の詳細は、以下の通りです。
評価詳細
You Must Believe in Spring
No | 曲名 | 感想 | 評価点 |
---|---|---|---|
1 | B Minor Waltz | ビル・エヴァンスのオリジナル曲で、なんとも哀しく美しい曲です。ビル・エヴァンスのピアノは、スローテンポで音数が少ないですが、説得力がすごく、ビル・エヴァンスのオーラが出まくっている曲です。エディ・ゴメスのベースは、主張しすぎず、音の「間」が良く、ビル・エヴァンスのピアノを引き立たせています。 | 8点 |
2 | You Must Believe in Spring | フランスの作曲家ミシェル・ルグランが、映画「ロシュホールの恋人たち」のために書いた曲で、トニー・ベネットとのデュエット・アルバム「Together Again」にも収録されている曲で、きっと、トニー・ベネットが、ビル・エヴァンスに紹介した曲なのだと思います。この曲も、1曲目と同様、哀しくも美しい曲です。エディ・ゴメスのベース・ソロの後に、軽快なビル・エヴァンスのピアノが演奏され始めますが、哀愁さが溢れています。 | 9点 |
3 | Gary’s Theme | アメリカの作曲家、アレンジャーであるゲイリー・マクファーランドの作曲で、美しい綺麗ななメロディを持つ曲です。ビル・エヴァンスのピアノは、耽美(美を最高の価値として、ひたすらその世界に心を傾け陶酔すること。)という言葉がよく似合っています。美しすぎます。 | 7点 |
4 | We Will Meet Again (for Harry) | ビル・エヴァンスのオリジナル曲で、かっこ書きに「ハリーのために」と副題が付いていますが、ハリーとは、ビル・エヴァンスの実兄のことです。このアルバム収録時はまだ、ハリーは健在だったのですが、ビル・エヴァンスもハリーも他界後にこのアルバムが発表されたため、この副題がつけられました。そのため、ここでは、ハリーのことを思って演奏しているわけではありませんが、ビル・エヴァンスのピアノは哀愁の帯びた悲しげな演奏ではあります。 | 7点 |
5 | The Peacocks | アメリカのジャズ・ピアニスト ジミー・ロウルズの作曲で、これまた哀愁のある美しい曲です。レコード版だと、B面の1曲目に当たりますが、A面に引き続き、ビル・エヴァンスのピアノ演奏は素晴らしく、ビル・エヴァンスの全ての楽曲においても、上位に位置付けられる演奏だと思います。それだけ緊張感があり1音1音に心がこもっています。 | 9点 |
6 | Sometime Ago | アルゼンチンのジャズ・ピアニスト セルジオ・ミハノビッチ作曲で、このアルバムの中で、最も美メロの曲です。その美メロを持つ主題を、ビル・エヴァンスは、少ない音ながら、うまく美しさを引き出しています。エディ・ゴメスのベースが大きめの流れるような音で、これまた素晴らしい演奏をしています。 | 8点 |
7 | Theme from M*A*S*H (Suicide Is Painless) | ジョニー マンデルが、映画「M*A*S*H」のために書いた曲です。このアルバムの中では、ビル・エヴァンスのピアノも、エディ・ゴメスのベースも、最も迫力のある演奏をしています。ピアノ、ベースともに、流れるようなアップテンポの演奏で、特に、ベースのリズム感が素晴らしく、ビル・エヴァンスのピアノに負けじと頑張っています。 | 8点 |
平均点 | 8.0点 |
Bill Evansは、このアルバム収録時、自分の死を意識していたのか分かりませんが、今までのBill Evansの集大成的なアルバムで、ピアノ・トリオ のアルバムとして、最高傑作の1枚だと思います。
Bill Evansの最高傑作は、Scott LaFaroとの4枚のアルバムがあげられることが多く、「You Must Believe in Spring」のような素晴らしいアルバムが影に隠れてしまうのは、非常にもったいないように思えます。Bill Evansのアルバムを聴いてみたい方には、絶対、おすすめしたいアルバムです。
(メンバ)
Bill Evans:Piano
Eddie Gómez:bass
Eliot Zigmund:drums
New Conversations
No | 曲名 | 感想 | 評価点 |
---|---|---|---|
1 | Song for Helen | ビル・エヴァンスのオリジナル曲です。出だしのキラキラ感が半端なく、アコースティック・ピアノの多重録音によるごちゃごちゃ感が少しありますが、その後は、ピアノの音数が減り、ちょうど良い塩梅になります。途中からエレピが少し入ってきますが、アコースティック・ピアノに溶け込んでおり、それほど気になりません。 | 6点 |
2 | Nobody Else But Me | アメリカの作曲家ジェローム・カーンの作曲のリズミカルな曲です。前半は、低音のエレピが渦巻いていますが、途中から、アコースティック・ピアノの多重録音のアップテンポの演奏がされています。エレピ中心の曲です。 | 6点 |
3 | Maxine | ビル・エヴァンスのオリジナル曲です。アコースティック・ピアノと、高音のエレピが入ってきますが、エレピの音は、アコースティック・ピアノに溶け込んでいるため、アコースティック・ピアノの良さを壊している感じはありません。 | 6点 |
4 | For Nenette | こちらも、ビル・エヴァンスのオリジナル曲です。落ち着いた曲で、多重録音されている感じはせず、アコースティック・ピアノの音数は少なめです。ビル・エヴァンスらしいバラード曲で、ビル・エヴァンスの甘美さが表れています。エレピがところどころで入ってきますが、エレピ中心に演奏されることはありません。 | 7点 |
5 | I Love My Wife | 同名のミュージカルのために、アメリカのジャズ・ピアニスト サイ・コールマンが作曲したバラード曲です。アコースティック・ピアノの多重録音により、アコースティック・ピアノの音数が多くなっています。途中から、さらにアコースティック・ピアノが激しくなりスイングしていきます。エレピは、入ってきません。 | 6点 |
6 | Remembering the Rain | ビル・エヴァンスのオリジナル曲で、美しいバラード曲です。このアルバムの中では、最も、ビル・エヴァンスの甘美さが表れている曲です。エレピの音が少し入っていますが、このエレピの音がこの曲の美しさにあっていて、アコースティック・ピアノの美しさを更に引き立たせています。 | 8点 |
7 | After You | 「Night and Day」などジャズ・スタンダード曲を多く作曲しているコール・ポーターの曲ですが、この曲は、あまり知られていない曲です。1台のアコースティック・ピアノで演奏されている出だしのメロディが美しいです。徐々に白熱していき、複数台のアコースティック・ピアノによる複雑なアップテンポの曲に変わっていきます。 | 5点 |
8 | Reflections in D | ジャズ・オーケストラで知られるデューク・エリントンの曲です。このアルバム最後の曲に相応しく、アコースティック・ピアノの静かな演奏で幕を閉じます。 | 6点 |
平均点 | 6.3点 |
「自己の対話」「続・自己の対話」に続く、Bill Evans自身のピアノ多重録音のアルバムです。「自己の対話」「続・自己の対話」と比較すると、ピアノの使用方法のバランスがよいです。エレピも使用されていますが、アコースティック・ピアノを邪魔することなく自然な使い方がされています。
Bill Evans自身、「自己の対話」「続・自己の対話」の出来に満足していませんでしたが、このアルバムは、納得できるアルバムになったと評しています。Bill Evansは、このアルバムのために、4曲を書き下ろしています。
(メンバ)
Bill Evans:piano,electric piano
Affinity
No | 曲名 | 感想 | 評価点 |
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1 | I Do It for Your Love | ポール&ガーファンクルのポール・サイモンが書いた曲で、ポール・サイモンのアルバム「時の流れに」に収録されています。もともとのポール・サイモンの曲に、トゥーツ・シールスマンスも参加していたことから、この曲が紹介されたのだと思います。トゥーツ・シールスマンスのハーモニカもさる事ながら、ビル・エヴァンスのピアノがとても美しいです。 | 7点 |
2 | Sno’ Peas | ジャズ・ピアニスト フィル・マーコイッツ作曲のブルース調の曲です。トゥーツ・シールスマンスのハーモニカ、ビル・エヴァンスのピアノ、ラリー・シュナイダーのサックスが主題を演奏した後、ハーモニカ → ピアノ → サックスの順に、ソロに入っていきます。トゥーツ・シールスマンスのハーモニカの音がクリアで、美しい演奏です。 | 7点 |
3 | This Is All I Ask | ゴードン・ジェンキンス作曲のポピュラー・ソングで、ゴードン・ジェンキンス自身、最高傑作の曲だと評しています。その通りの曲で、ビル・エヴァンスの甘美なピアノに、トゥーツ・シールスマンスのスローテンポのハーモニカが演奏され、バラード曲にも、ハーモニカが合うことを証明しています。 | 8点 |
4 | Days of Wine and Roses | 映画「酒とバラの日々」のテーマ曲で、ヘンリー・マンシーニ作曲の有名な曲です。ビル・エヴァンスのアルバムでも何度か登場している曲でもあります。トゥーツ・シールスマンスのハーモニカで主題が演奏されていますが、この主題が、ハーモニカに合っているかは微妙な感じがします。ビル・エヴァンスのピアノは、リズミカルで美しい演奏です。 | 5点 |
5 | Jesus’ Last Ballad | イタリアのジャズ・サックス奏者ジャンニ・ベドリーの作曲のバラード曲です。ビル・エヴァンスは、エレピだけの演奏で、アコースティック・ピアノの演奏はされていません。ビル・エヴァンスのエレピの演奏は評判が良くないですが、この曲のエレピは、素晴らしく、ビル・エヴァンスはエレピも極めたのではないかと思える演奏です。 | 7点 |
6 | Tomato Kiss | このアルバムに、サックスで参加しているラリー・シュナイダーの曲です。それにしても変わった曲名がつけられていますが、曲自体も変わった曲です。サックスの音が、ふにゃふにゃで、軸がしっかりしていない印象を受けます。ビル・エヴァンスはエレピを演奏していることもあって、ヒュージョン寄りの曲です。 | 5点 |
7 | The Other Side of Midnight (Noelle’s Theme) | 曲名と同名の映画のために、ミシェル・ルグランが作った曲です。「Jesus’ Last Ballad」と同様、ビル・エヴァンスは、エレピだけの演奏で、気だるさのある上手い演奏がされています。その上に、トゥーツ・シールスマンスのハーモニカが入ってきて、更に、気だるさを増しています。 | 7点 |
8 | Blue in Green | マイルス・ディヴィスの名盤「Kind of Blue」に収録されているマイルス・ディヴィスとビル・エヴァンスの共作曲です。トゥーツ・シールスマンスのハーモニカは、流石に、マイルスのトランペットを上回ることはありませんが、そこそこブルージーな渋い演奏がされています。 | 7点 |
9 | Body & Soul | Johnny Green作曲のジャズ・スタンダード曲です。トゥーツ・シールスマンスのハーモニカは、迫力のある演奏をしています。それに呼応して、ビル・エヴァンスのピアノも、迫力のある演奏をしています。ハーモニカもピアノも哀愁が帯びています。 | 7点 |
平均点 | 6.7点 |
ハーモニカのToots Thielemansと共演したアルバムで、ハーモニカ中心の演奏がされています。何曲か、Larry Schneiderがサックスで参加しています。
過去のアルバムの中で何度も、Bill Evansはエレピを演奏していますが、ほとんどがアコースティック・ピアノを邪魔している印象が強かったです。しかし、このアルバムのエレピは美しく、Bill Evansはエレピを極めた印象を受けます。
(メンバ)
Bill Evans:piano, keyboards
Toots Thielemans:harmonica
Larry Schneider:flute, tenor saxophone, soprano saxophone
Marc Johnson:bass
Eliot Zigmund:drums
We Will Meet Again
No | 曲名 | 感想 | 評価点 |
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1 | Comrade Conrad | ビル・エヴァンスのオリジナル曲で、「The Bill Evans Album」にも収録されています。「The Bill Evans Album」では、アコースティック・ピアノとエレクトリック・ピアノでの演奏でしたが、こちらは、管楽器が入ったアコースティックの演奏です。ラリー・シュナイダーの明るいサックス・ソロが、長く続き、トム・ハレルのトランペット、ビル・エヴァンスのピアノの順でソロ演奏がされていきます。 | 6点 |
2 | Laurie | ビル・エヴァンスのオリジナル曲です。ビル・エヴァンスの甘美なピアノに、カフェ・ミュージックのような管楽器が入ってきます。管楽器のバックで演奏されているビル・エヴァンスのピアノも甘美的です。管楽器が入ったことでムード音楽に近い感じがします。 | 6点 |
3 | Bill’s Hit Tune | ビル・エヴァンスのオリジナル曲です。意味深な曲名ですが、曲自体は、ヒットを狙って作られたような感じはなく、センチメンタルな美しい曲です。映画「カサブランカ」で使用された「As Times Go By」に似ている気がします。ビル・エヴァンスのアコースティック・ピアノの後に、管楽器が入ってきますが、ここから、エレピが使用され始めます。エレピのソロも入っています。 | 6点 |
4 | For All We Know (We May Never Meet Again) | このアルバム唯一のビル・エヴァンスのオリジナル曲ではなく、J. フレッド クーツ作曲のポピュラー・ソングです。「We May Never Meet Again」と投げやりな副題が付いていますが、ラスト曲では、「We Will Meet Again」で締められます。ビル・エヴァンスのアコースティック・ピアノのみの演奏で、ビル・エヴァンスらしい甘美な演奏が聞けます。 | 7点 |
5 | Five | ビル・エヴァンスのオリジナル曲で、「New Jazz Conceptions」にも収録されています。出だしのメロディは、セロニアス・モンクを彷彿させます。ここまで、ベースが目立っていませんでしたが、冒頭から、ベース・ソロが入り、サックス、トランペット、ピアノ、ドラムの順にソロが続きます。このアルバムの中では、最も、ジャズらしい曲です。 | 6点 |
6 | Only Child | ビル・エヴァンスのオリジナル曲で、前半は、エレピ全開の曲です。ラリー・シュナイダーのサックスが美しく、それに合わせて、エレピも美しく演奏されています。エレピであっても、アコースティック・ピアノと同様、ビル・エヴァンスの甘美な演奏が聞けます。後半は、アコースティック・ピアノの演奏にスイッチします。 | 7点 |
7 | Peri’s Scope | ビル・エヴァンスのオリジナル曲で、エヴァンスのガールフレンドのペリに催促されて作られた曲とのことで、明るい軽やかな曲です。「Portrait In Jazz」にも収録されており、トリオ編成よりも、管楽器が入った方が合っている曲です。ラリー・シュナイダーの明るいサックスの演奏が、この曲にぴったりです。 | 6点 |
8 | We Will Meet Again | ビル・エヴァンスのオリジナル曲で、「You Must Believe in Spring」にも収録されています。このアルバムでは、兄ハリーに捧げていることから、かなり哀愁のある悲しみをこめた演奏がされています。ビル・エヴァンスのピアノのみの演奏です。曲の長さが、「You Must Believe in Spring」よりも短く編集されています。 | 8点 |
平均点 | 6.5点 |
Bill Evansの実兄ハリーが銃で自殺をしてしまった直後に録音されたアルバムで、ハリーに捧げたアルバムです。その割には、湿った感じはなく、明るめの曲が多く収録されています。
このアルバム発売の1年後に、Bill Evansも他界してしまいます。このアルバム名通り、「We Will Meet Again」になってしまいました。そのため、このアルバムが、Bill Evans最後のスタジオ・アルバムになります。
(主要メンバ)
Bill Evans:piano, electric piano
Tom Harrell:trumpet
Larry Schneider:tenor saxophone, soprano saxophone, alto flute
Marc Johnson:bass
Joe LaBarbera:drums
まとめ
1977-79年録音の最後のスタジオ・アルバム4枚を紹介・評価しました。
ビル・エヴァンスの場合、スコット・ラファロとのアルバム4枚(「Portrait in Jazz」「Explorations」「Sunday at the Village Vanguard」「Waltz for Debby」)ばかりが取り上げられ、それ以外のアルバムは、ほとんど無視されているにも等しい扱いがされています。
しかし、スコット・ラファロとのアルバム4枚以外にも、素晴らしいアルバムがあることを認識いただけると、この記事を書いた甲斐があります。
1956年からのビル・エヴァンスのアルバムを、10回に渡り、記事しましたが、その締めくくりとして、次回は、全アルバム・ランキングのまとめをしていきたいと思います。
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